Galactic Inquiry: リチャード・ギャリオット インタビュー Part1


Galactic Inquiryはスペースコンバットシム"Star Citizen"を取り扱うネット配信のトークショー番組です。
前回のスター・ロンインタビューに引き続き、今回はリチャード・ギャリオットへのインタビューが実現しました。
UO黎明期の話からTabula Rasa、SotAと話題は尽きません。
以下はインタビューの前半部の抄訳となります。

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インタビュアー:
いままでの長いゲーム開発のキャリアの中で自身が成し遂げた仕事のうちで、最も誇れることはなんだと思いますか?

リチャード・ギャリオット(以下RG):
黎明期のコンピューターRPGは単純にモンスターをやっつけてお宝を手に入れるという内容のものばかりでした。
しかし、私の手がけたUltima 4では"徳"の概念をゲームシステムに組み入れて、プレイヤーの振る舞いによってゲーム内のNPCからの反応が変化する、という仕組みを導入しましたんです。
この新しい試みは大成功しました。
Ultima 4は当時のコンピューターRPGのマーケットでトップセラーのタイトルになったのです。

インタビュアー:
どうして徳の概念を導入しようと思ったのですか?単純な善悪の対立ではダメな理由が?

RG:
まず、旧来のゲームでは悪役を倒すことが最大の目標となっています。
プレイヤーは悪役を倒すために様々なことを試みるわけですが、中にはNPCの商店を襲って金品を強奪したりするプレイヤーもでてくるわけです。
当の悪役はダンジョンの最終地点で大人しくプレイヤーを待っているのに、正義の主人公はといえば、街中で殺戮と略奪の限りを尽くしているという有様です。
これではどっちが本当の悪役だかわからないですよね(笑)。

私はそういったプレイヤー達の振る舞いをみるにつけ、ゲームの中でとはいえ、こういった行為を肯定するのはいかがなものかと思ったのです。
私はこういった行動を禁止することはしませんでしたが、ゲームコードの中に窃盗などの行為に対してフラグを設定し、ペナルティを設けることにしたのです。
たとえばある街でプレイヤーがやりたい放題悪事を働いた場合、後でその街の市長にプレイヤーが援助を要請しても、市長はプレイヤーの要求をはねつけるようになるのです。
市長は"おまえのやった悪事はみんな知っているのだぞ!"とプレイヤーに言うわけですね。
現実と同様に、ゲーム中でも自身の行いが自分に降りかかってくるようなシステムを実装したこと、そしてマーケットでもそれが評価されたこと、これは私のキャリアの中で達成した大きなことのひとつだと思っています。

それからUltima 7で"ゲーム世界のシミュレート"を成し遂げたことも、誇れる仕事として挙げられますね。
ゲームの世界の中には建物があって、その中には机があるわけです。
そして机の上にはカップなりボウルなりがあって、それに入っている飲み物などを実際にプレイヤーキャラクターが飲むことができるわけです。
もちろん部屋の中にあるベッドで眠ることだってできます。
スイッチ類も全て操作できますし、箱などのコンテナ類も全て開くことができ、そしてその中身を入れたり出したりも自由自在です。
全てのNPCには一日のスケジュールが設定されており、それぞれが違う一日を過ごしているわけです。
こういった要素は世界のリアリティを高めてくれるわけですね。

インタビュアー:
サンドボックス型のゲームの走りとも言えるのでは?

RG:
細かい言葉の定義はおいておくとして、私はそうだと思っています。

インタビュアー:
今ではこの業界ですっかり馴染みとなった"アバター(Avatar)"という単語ですが、この単語をゲーム業界に持ち込んだのは、あなたが初めてなのでは?

RG:
はい、そうだと思います。
Ultima 4の副題"Quest of the Avatar"が表すとおり、"Avatar"という言葉をピックアップしたのはこの業界では私が初めてになるでしょう。
では、どうして私はこのAvatarというワードをゲーム中に持ち込んだのか?その理由を説明しましょう。

それまでのゲームでは、プレイヤーはゲーム中のキャラクターの役割をプレイしてきました。
たとえば"コナン・ザ・グレート"というRPGがあったとしましょう。
そのゲームの中では、コナンの役割をプレイヤーが演じることになります。
つまり、ゲーム中であなたはヒーローのような大立ち回りをすればそれでよいわけです。

しかし、Ultima 4では、主人公はプレイヤーの分身そのものなのです。
ゲーム中の分身(主人公)の性別や姿形はリアルのプレイヤーとは違いますが、その魂(スピリット)そのものはプレイヤー自身のものと同一です。
コナンのゲームのように、主人公のキャラクターがコナンの魂をもっていて、コナンのように振る舞うようプレイヤーに仕向けられているわけではありません。
主人公がどう振る舞うかは、リアルのあなた自身の判断にすべて委ねられているのです。

Ultima 4では徳の概念が重要なものとなっています。
私は徳のシステムを作るにあたり、さまざまなリサーチを行いました。
そしてヒンドゥー教における"Avatar"という言葉に行き着いたのです。
(神が現世へ現れるときの仮の人型の肉体、の意)
このAvatarという言葉と意味は、Ultima 4におけるプレイヤーキャラクターを表すものとしてまさにピッタリなものだったんです。

いまでは様々なゲームでプレイヤーキャラクターの姿を現わすのにAvatarというワードが使われていますが、このワードを仮の肉体・現し身の意味で用いた作品はUltima 4が初出だと思っています。
Tabula Rasaを制作している時にSF小説の"スノウ・クラッシュ"を読んだことがあるのですが、この小説ではまさにUltima 4におけるAvatarとほとんど同じ意味で"Avatar"が登場します。
ところが世間ではスノウ・クラッシュがいわゆる"Avatar"の初出の作品だと思われているんですね。
Ultima 4 - Quest of the Avatarは1985年発売のゲームで、スノウ・クラッシュの発表はその3年後です。
ですから、私のほうが先駆けだということをここで言わせてください(笑)

インタビュアー:
(笑)

RG:
このとき、私はAvatarという言葉とその概念を商標登録化しようとしたんですが、残念ながら申請は通りませんでしたね。




インタビュアー:
Ultima Onlineのことについてもうかがわせて下さい。
(Diabloのような)ダンジョン探索のマルチプレイヤーゲームはすでにありましたが、UOはその世界のサイズを飛躍的に拡大させ、MMORPGという新しいジャンルを切り開くに至ったタイトルですね。

RG:
マルチプレイヤーゲームの発想自体は新しいものではありません。
UO以前にもLANによる多人数でのプレイができるタイトルは存在しました。
しかし、インターネットというテクノロジーが登場したときに、私はUltimaの世界をたくさんのプレイヤーが同時に体験できないかと思いついたんです。
当時のゲーム業界では、インターネットの技術を用いたゲームタイトルの開発はほとんど行われていませんでした。
ミリオンヒットを飛ばすゲーム会社であってもインターネットとゲームの組み合わせに関しては研究されていなかったのです。
それからインターネットが普及を始めるとともに、今こそインターネットを使ったUltimaを開発するチャンスだと、私はスター・ロンとともにUOプロジェクトを立ち上げました。
当時はUOプロジェクトに対して親会社(EA)の理解が得られませんでしたが、なんとかデモバージョンの開発までこぎ着けることができました。
そしてベータバージョンの有料テスターを募集していたところ、採算ラインを大きく超えるプレイヤー数を確保することができたのです。
とうとうEAもこのUOプロジェクトに本腰をいれ、正式にGOサインが出ることになりました。

インタビュアー:
UOではUltimaシリーズの特徴であった、徳を背景としたストーリー展開というものはほとんどありませんでしたよね?

RG:
SotAの出資者達の反応からもうかがえるのですが、SotAに期待するプレイヤーには大きく分けて2つのタイプがあるようです。
ひとつはUltimaシリーズのような、重厚なストーリーが展開されるシングルプレイヤー体験を期待しているプレイヤー達です。
もうひとつのタイプは、UOのようなマルチプレイヤー体験を期待しているプレイヤー達です。
PvPやゲーム内でのさまざまなソーシャルな要素を楽しみにしているプレイヤー達ですね。

UOの時には徳の概念はただの世界観のバックボーンのひとつとして存在しているに過ぎませんでしたが、SotAでは徳の概念を軸にしたストーリーが展開されるようになるでしょう。
さらに、プレイヤーの選択によってSotAのストーリーラインは分岐するようになります。

インタビュアー:
2000年にあなたはOriginを退社することになったわけですが、その後の活動の際に何かプレッシャーはありましたか?

RG:
時代によってゲームに要求されるものは変化します。そしてそれは避けられないことです。
プレイスタイルの嗜好の変化には、どんなタイトルも逆らうことはできません。
覇権タイトルとなったゲームが、すぐに没落してしまうのもこの業界では珍しいことではありません。
現在、アメリカではブリザード社のWoWがMMO界をリードしていますね。
韓国やアジアの地域ではNCソフトが覇権を握っています。

私がTabula Rasaのプロジェクトに着手した時、アメリカとアジアの顧客をターゲットとする方向で開発が始まりました。
また、それらの地域に共通して人気のあるジャンルとして、SF(サイエンスフィクション)を題材とすることになったのです。
Tabula Rasaは複数の地域をまたがる形でセールスを行ったのですが、それぞれの地域で好まれるゲームの形はかなり違ったものでした。
我々はそれぞれの地域に合うように調整を行い、2年間のセールスを行いましたが、Tabula Rasaは結局どのマーケットにも食い込むことができず、商業的には失敗しました。

しかしTabula Rasaに投入されたゲームコンテンツには優れたものもたくさんあります。
コントロール・ポイントというTabula Rasaの抗争拠点のシステムはSotAにも投入されますし、敵AIも従来の真っ直ぐ向かってくるだけのものではなく、プレイヤーが物陰に隠れれば迂回したり、あるいは散開してプレイヤーを包囲したりするなど、先進的な要素が盛り込まれていたのです。
商業的には失敗したものの、Tabula Rasaのこれらのシステムは非常に優れた要素だと思っています。

インタビュアー:
ではShroud of the Avatarについてのお話もうかがうことにしましょう。
今までのキャリアをどうSotAの開発で生かすことができていますか?

RG:
SotAのマルチプレイヤーゲームシステムは、今までのノウハウがあったからこそ着想できたものだと思っています。

UO初期の話になりますが、当初UOはゲームサービスの終了までに3万人の顧客を得ることができるだろうと上層部は踏んでしました。
しかし、フタを開けてみれば30万人ものユーザーを獲得することができました。
初期の計画では稼働サーバはひとつだけにして、全てのユーザーをそこへ収納する計画だったのですが、予想を超えるプレイヤー数の増加にサーバを分割してそれぞれの独立したパラレルワールドの世界へプレイヤー達を収納していったのです。
しかし、サーバが分割されてしまったことにより、ほかのサーバに知り合いがいたとしても、キャラクターデータを持ち越してそのサーバに接続することができません。
違うサーバのプレイヤーと遊ぶには新規キャラクターを作成する必要があります。
しかし、SotAではその問題を解決します。

インタビュアー:
シャード(サーバ)を統合するというわけですか。

RG:
そうです。
SotAでは、例えばある街がプレイヤーでいっぱいになってしまうと、コピーインスタンスを作成し、そのコピーインスタンスへ新しく街を訪れたプレイヤーを収納します。
そのコピーもいっぱいになってしまうと、コピーインスタンス2が作られそこへ収納するという形になります。
しかし、元のインスタンスも、コピーインスタンスも、街の中のNPC商人の商品在庫や、プレイヤーハウスなどのデータは全て共通です。(※)
街に収納できるプレイヤーの数は今後調整をしていきますが、あまりに多すぎると街を歩くだけでも他のプレイヤーと押し合いへし合いしなければなりませんからね。
ちょうど良い人数になるようテストをして、最適な人数になるようにしたいですね。

訳者註:元のインスタンスである商人のアイテムが売り切れてしまうと、コピーインスタンスの商人の在庫も同様に売り切れとなる。
また、コピーインスタンスのあるプレイヤーハウスにデコレートを施すと、元のインスタンスのプレイヤーハウスも同じデコレートが施される。
インスタンスとコピーインスタンスの関係は平行であるが、NPC商人やプレイヤーハウスなどのデータは共通化されている。

また、プレイヤーマッチングにも新しい試みを行っています。
カンタンにいえば、プレイヤーは自分と関連度の深いプレイヤーと優先的にマッチするということです。
現在私はニューヨークに住んでいますが、雑踏の中ですれ違う人は名前も顔も知らない人ばかりで、それらの人々とはもう一度どこかで会えるかどうかも不確かです。
しかし、行きつけのカフェにいけば、いつも見知った顔の人達と会うことができます。

SotAでは知り合いのプレイヤーと同じインスタンスになるようにマッチングシステムを調整しています。
フレンドに設定しているプレイヤーや、以前に会話や取引をしたことのあるプレイヤーとマッチングしやすくなるわけです。

…後半へ続く(予定)

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